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天皇をテーマにした異色のSF政治漫画『ジャパン』(1993年)の魅力

   

大塚英志原作の『ジャパン』は異色の政治漫画

大塚英志原作・伊藤真美作画の『ジャパン』は1993年に『コミックコンプ』に連載されていた異色の政治漫画です。タブーであった「天皇」を扱ったSF作品でもありました。

当時リアルタイムにこの漫画を読んでいて強い影響を受けたけど、出版社の事情で3巻で連載中止となり、今現在は絶版となってしまったので古本でしか手に入りません。

でもこんなに面白く意欲的な作品がお蔵入りしている状況は勿体ないので、登場人物紹介にフォーカスして漫画の内容を紹介しようと思います。いつか復刊して続編が作られてほしい。

『ジャパン』のあらすじ 「地図から消された国」

『ジャパン』の舞台は2093年の世界。

21世紀初頭に日本はゲーム産業やIT産業などで空前の経済繁栄を遂げて多国籍企業となって各国に経済進出し、自衛隊を日本軍として改組して国際平和維持の名目で世界中に派遣してアジアを支配下においた。

世界中で反日感情が悪化する中、2029年に日本は国連から脱退してロシア国内への侵攻を開始。アメリカとロシアは東京への核攻撃を行い日本は壊滅した。

その後、国連が中心となって世界政府が成立。民族の融和と母性による平和をスローガンに掲げる世界政府は日本を地図から削除。日本の存在や各民族の創世神話を教育課程から抹消し、インターネットやマスメディアも統制下においた。

ジャパンはタブーとされ、世界政府によって極秘裏にジャパンの血を引く人々への断種政策が実施されることになった。

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『ジャパン』の登場人物紹介

世界政府は人間の精子を管理下に置き、試験管の中で誕生した人物も多い。そのため『ジャパン』の登場人物は多くが歴史上の人物に由来する名前となっている。

主人公はオオエ・ヒガン。世界政府の中でも法規制が緩いアジールであった香港で暮らしていたが、ヒラオカという人物から自分がラストエンペラーの血を引くものであると教えられる。

香港のシーンでは、アヘン窟で「赤狩り」(実際はコミュニストは存在せずその実態は日本人狩り)が行われたとき、オオエ・ヒガンを逃がした娼婦キョン・ヒの最後の笑顔が忘れられない…。彼女は赤狩りに捕まり、オオエ・ヒガンの居場所を最後まで隠し通したために帰らぬ人となった。

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レーニンとヒラオカは、香港にあるジャパンの亡命政府の動きを阻止するために政治取引を結ぶ。レーニンとヒラオカとマザー・シキブはかつて世界政府打倒を画策していたレジスタンス組織のメンバーだった。

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香港のジャパン亡命政権のミカドの「傀儡」。彼は純粋にミカドの血を引いているわけではないが、風貌からミカドとしての地位が与えられて亡命政権の傀儡になっている。オオエ・ヒガンをラストエンペラーとして迎え入れるために彼と接触して、亡命政権の所在地(かつて日本が香港に建設したアミューズメントパークの跡地)に連れて行く。

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香港にあるジャパンの亡命政権でミカドの皇位継承権があるとされていたカムロとヒナコ(傀儡の兄妹)。しかし彼らは純粋なジャパンの血筋ではないため皇位継承権を否定される。2人はオオエ・ヒガンと敵対。タルコフスカヤと手を組んでオオエ・ヒガンを香港から追放する。

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香港の亡命政権の指導者、自称「吉田茂」。タルコフスカヤが亡命政権のパトロンとなっていたが、彼が裏切って香港市長のマザー・シキブ(タルコフスカヤの妹)と手を組んだことにより惨殺される。

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アンドレイ・ナボコフが、マザー・シキブの娘のネハン・タルコフスカヤに香港の歴史を解説しているシーン。ネハンはマザー・シキブがレーニンから精子提供を受けて誕生した子供とされていたが、最後に驚きの結末が明らかになる。ナボコフはタルコフスカヤの核弾頭運搬に利用される。

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世界政府の数少ない男性閣僚の1人、タルコフスカヤ情報相。彼はマザー・シキブの兄でありゲイである。タルコフスカヤは香港でクーデターを起こし、レーニンを暗殺してマザー・シキブを拘束。世界政府からの独立を宣言して世界政府に宣戦を布告する。

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暗殺される直前のレーニン。彼はタルコフスカヤを殺害してマザー・シキブを拘束しようとしたが…。

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世界政府の最高指導者・聖母マザー・ジョカとオンラインで対談するタルコフスカヤ。タルコフスカヤは世界政府の首都モスクワを核攻撃できると脅迫し、世界政府側の降伏条件としてジャパンの国境開放を要求する。

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マザー・テレサ。彼女は日本人を断種政策によって段階的に根絶するのではなく、タルコフスカヤの話に乗って日本にジャパンの血筋を引く者や世界政府の不満を持つ人々を集め、一気に根絶やしにする計画を立案する。

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世界政府の最高指導者マザー・ジョカと対話するジャパンの「おじいさま」。「おじいさま」は地図から消されたジャパンで本物のミカドとして番人を行っている。マザー・ジョカもまた試験管の中で誕生してジャパンの血を引いている。

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タルコフスカヤ情報相はジャパンに「異境」を求める人々を集めることにより、世界政府の秩序を破壊することを画策する。ヒナコはカムロがジャパンに向けて出ていった時にタルコフスカヤによってアヘン漬けにされてしまった。

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世界政府から「異境」を求めて多くに人々がジャパンに向かうことになるが…。

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この漫画が廃刊されている現状が嘆かわしい

本作品や大塚英志氏に関しては賛否色々あると思うけど、この漫画は90年代のコミック文化の一側面を描いた作品であったと思います。これが絶版となって続編がつくられない状況は嘆かわしい。

いつか改めて復刊することを願っています。