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復旧した大熊町役場と中間貯蔵施設を見学してきた

   

福島第一原子力発電所は大熊町と双葉町の境界に建てられていたため、2011年3月の福島第一原発事故によって大熊町は町全体が避難指示の対象地区となりました。しかし今年になって大熊町の2地区の避難指示が解除され、大熊町役場も完成しました。また大熊町と双葉町には中間貯蔵施設の建設が進められています。

今回は復旧した大熊町役場の本庁舎と中間貯蔵施設を見学してきました。

大熊町役場に行ってきた

先月2019年5月に大熊町に開庁した大熊町役場を見てきました。

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大熊町は福島第一原発の事故により町全域に避難指示が出ました。町役場の機能も会津若松市に移転しました。大熊町は特例として事故後も東京電力の社員およそ650名が生活することが認められた以外は、町の大部分が帰還困難区域になったままでした。

しかし今年4月に大熊町の大川原・中屋敷の2地区で避難指示が解除され、翌月に町役場の本庁舎が大熊町に開庁しました。

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あいにくの梅雨空でしたが新築された町役場の外観が見えてきました。かなりお洒落な外観になっています。

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町役場の中もかなり綺麗です。写真ではわかりにくいですが吹き抜けのコミュニティスペースもあります。

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まだ大部分の町民は町の外で避難生活を送っており、町役場を訪れている人はまばらでした。記憶が正しければ2人しか利用者を見掛けませんでした。1人はスーツを着て片手に資料を持っていたので住民の方ではなかったのかもしれません。

大熊町役場の見学を終えて中間貯蔵施設へ向かいました。

中間貯蔵施設って何?

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中間貯蔵施設 受入・分別施設(中間貯蔵工事情報センター

中間貯蔵施設の見学ツアーに入る前に、そもそも「中間貯蔵施設とは何か?」という点についてですが、中間貯蔵施設は福島第一原発事故に伴う除染作業などで出た放射線量の高い土壌や草木や廃棄物を保管(貯蔵)しておく施設となります。大熊町と双葉町に建設が進められています。

福島第一原発事故と放射性物質汚染対処特別措置法の成立

2011年3月11日以降、福島第一原子力発電所の事故で飛散した放射性物質は東日本に広範に広がりました。特に福島県内では各地の土壌の放射線量が増加しました。

2011年8月30日に国は放射性物質で汚染された瓦礫や土壌を処理するために放射性物質汚染対処特別措置法を成立させ、2011年11月にこの特措法に基づいた基本方針が閣議決定されました。

特別措置法および特別措置法の基本方針では、国・地方地自体・関係原子力事業者(=東京電力)が、放射性物質による環境の汚染や人体の健康や生活環境への影響を速やかに低減しなければならないと定められました。

放射性物質汚染対策特別措置法の廃棄物処理

特措法及び基本方針では、除染の実施エリアは環境大臣の指定により3つに分けて進められることになりました。「除染特別地域」「汚染状況重点調査地域」「原子力事業所内の土壌等の除染」です。

「除染特別地域」…環境大臣が除染特別地域と指定した地域は、国が直轄して除染実施計画を立てて国による除染を進めることとなりました。この特別区域は、田村市・南相馬市・川俣町・楢葉町・富岡町・川内村・大熊町・双葉町・浪江町・飯舘村の11町村です。

「汚染状況重点調査地域」…汚染状況重点調査区域は、放射線量が1時間あたり0.23マイクロシーベルト以上の地域が該当します。この地域では市町村長が調査計画や除染計画を立て、市区町村が除染等の措置を実施することになりました。この予算は国が予算措置を講じます。

「原子力事業所内の土壌等の除染等の措置及びこれに伴い生じた除去土壌等の処理」…こちらは福島第一原子力発電所内の除染です。この除染は関係原子力事業者(東京電力)が処理を実施することとなりました。

放射性物質汚染対策特別措置法の廃棄物処理

除染で出た土壌や瓦礫などの廃棄物の処理は大きく4つにわかれることになりました。

  • 特定廃棄物…環境省が汚染廃棄物対策地域に指定された地域は、環境大臣の対策地域廃棄物処理計画に基づき、国が処理することになりました。
  • 指定廃棄物…環境大臣が汚染廃棄物特定地域に指定していなくとも、汚染状態が8,000Bq/kgを越える指定廃棄物は自治体からの報告や申請に基づいて国が処理することになりました。(ベクレルは1秒間に崩壊する原子の個数を示す単位です。8,000Bq/kgであれば1kgで1秒間に8,000個の原子が崩壊していることを示しています)
  • 原子力事業所内及びその周辺に飛散した廃棄物の処理…福島第一原発とその周辺に飛散した廃棄物の処理は東京電力が行うこととなりました。
  • 特定廃棄物以外の汚染レベルの低い廃棄物…廃棄物処理法の規定を適用し、従来通り市区町村が処理することとなりました。

中間貯蔵施設の建設計画

このように放射性物質汚染対策特別措置法によって除染を行う場所と除染の処理を行う責任主体は明らかとなりましたが、これらの廃棄物がどこに集められどのように処理されるかが問題となります。

実際、現在も福島県内には除染作業などで出た土壌や瓦礫など黒い袋(フレコンバック)に詰めて白いフェンスで囲った場所にとりあえず置いておく「仮置き場」という場所が多数あります。この仮置き場はピーク時には1,350箇所(福島県内は1,300箇所)設置されていました(環境省調査)。

f:id:netcraft3:20181011200746j:plain (仮置き場)

政府は2011年10月に、これら仮置き場に保管されている放射性廃棄物を福島県内に建造する中間貯蔵施設に収容して減容化する考えを発表しました。その方針では、中間貯蔵施設の確保と維持運営は国(環境省)が行うことが決められました。また2015年1月を目処に施設の併用を開始することになりました。そして中間貯蔵施設の開始30年以内に、福島県外に最終処分場をつくり最終処分を完了するとされました。

政府の方針では特定廃棄物および指定廃棄物(8,000Bq/kg超)の可燃物は焼却して焼却灰にした後、10万Bq/kgを超える高い放射性廃棄物は中間貯蔵施設で収容することされています。可燃物ではない土壌などは減容化した後に中間貯蔵施設に収容されます。10万Bq/kg以下の廃棄物は既存の管理型処分場で処理する見通しとなっています。

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(環境省「汚染土壌などの中間貯蔵施設について」)

中間貯蔵施設の現在

2013年3月に政府は中間貯蔵施設の建設を受け容れるよう福島県・双葉町・大熊町・楢葉町に要請しました。大きな議論を経て、2014年に福島県と大熊町は苦渋の決断で中間貯蔵施設の受入を容認、翌2015年には双葉町が受入を容認しました。これにより工事が可能となり、 2016年に受入分別施設および土壌貯蔵施設の着工が開始しました。2017年から土壌貯蔵施設への貯蔵が開始され、福島県内の仮置き場から毎日多数のトラックでフレコンバックの放射性廃棄物が仮置き場に運ばれています。

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中間貯蔵施設というと1つの建物であるように聞こえますが、実際には福島第一原子力発電所を同心円で囲むような広大な敷地が中間貯蔵施設になっています。現在完成している受入・分別施設や土壌貯蔵施設以外にも、減容化施設・廃棄物貯蔵施設・水処理施設・付属施設などもあります。現在既に300万立方メートルの廃棄物を受け容れましたが、最終的には3〜5平方キロメートルの用地を取得し、容積は1500〜2800万立方メートルの廃棄物を受入可能なようにする予定です。現在も用地買収の交渉が行われています。

中間貯蔵施設の見学会

中間貯蔵施設の見学会は、「中間貯蔵工事情報センター」が集合場所でした。中間貯蔵工事情報センターは、環境省が設置して中間貯蔵・環境安全事業株式会社(JESCO)という会社が運営している、地域住民へ向けての中間貯蔵施設の動画やパネルを展示している施設です。月1回、中間貯蔵施設を見学できるツアーを行っています。FAXまたはメールで事前申し込みが必要で、当日は身分証の確認が行われます。15歳未満や妊娠されている人は参加できません。

www.jesconet.co.jp

見学会の参加者は全部で50人くらいいました。私達福島第一原発20キロ圏内ツアーのガイド以外には企業の方が多かったようです。2台の小型バスに乗り込んで中間貯蔵施設に向かいました。

中間貯蔵施設を見てきた

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見学会の参加者は全部で50人くらいいました。2台の小型バスに乗り込んで中間貯蔵施設に向かいました。中間貯蔵施設には福島県内から毎日多数のトラックが土壌や放射性廃棄物を運んできています。

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車体の先頭に緑色のゼッケンが貼ってあるトラックが、汚染土壌を中間貯蔵施設に運ぶトラックになります。黒い袋が輸送中に倒れたりなど緊急時にも対応できるように2台体制で運ぶルールになっているようです。福島県内の道路とりわけ国道6号線ではかなりこのトラックを見掛けます。

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中間貯蔵施設では至るところにこの黒い袋(フレコンバッグ)が山積みになっていました。

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ベルトコンベアで黒い袋を運ぶ設備も稼働していました。

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重機を使って黒い袋を並べているところもありました。

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黒い袋が野ざらしにならないようにシートを掛けて保護してある場所とそうでない場所があります。

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受入・分別施設です。ここで運ばれてきた土壌を可燃物や石などに分別します。

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こちらも受入・分別施設の一部と思われます。中間貯蔵施設の敷地内にはこのように建設中の建物が多数ありました。

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ここも建設中の受入・分別施設。

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こちらは土壌貯蔵施設です。地面に穴を掘り、黒い袋から分別した土壌を埋めて固めます。そして表面を覆って固めて30年間保存します。

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土壌貯蔵施設はかなりの大きさです。雨水や地下水などで放射性物質が漏れ出していないか常時放射線検査を行っていくそうです。

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こちらは完成した土壌貯蔵施設。表面が覆われています。

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巨大なベルトコンベア。総延長1.5kmくらいあるそうです。土壌をこのベルトコンベアで土壌貯蔵施設に運ぶ計画になっています。

「民家は撮影しないでください」と30年後

今回は走行中のバスの中から撮影したため(ポイントで立ち止まってくれなかった)ブレた写真が多かったのですが、中間貯蔵施設の内部について詳しく知ることができました。

「民家は撮影しないでください」と言われたので撮影しませんでしたが、中間貯蔵施設の中にはかかなりの民家や公共施設の廃墟が残っていました。いま稼働している施設も民家や田畑を壊して造られたものですし、今後もこれらの民家は取り壊されて中間貯蔵施設の用地になっていくと思われます。ここで暮らしていた色々な人々の思いが詰まっていたのかと思います。

政府は福島県内には一時的な中間貯蔵施設を造るだけで最終処分場は造らないと言っていますが、最終処分場の建設場所の見通しが全く立たない中で、30年後までにはここが最終処分場となっていくのではないかと地元でも噂されています。

30年後にここはどんな景色になっているんだろうと思いながら見学会を終えました。