はてな村定点観測所

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トリカゴの女王 ー大人になることの代償ー

   

相馬の田舎に帰ったnetcraftです

ご無沙汰しております、netcraftです。

色々あって東京都渋谷区から福島県相馬市の実家に帰ることになって、大分療養生活も進んできました。東京では1日15錠くらい飲んでいた抗鬱薬・睡眠薬も今では1日2錠まで減らしています。アルコール厳禁の通達が出たので、ノンアルコールビールを飲みながら眠くなる時を待っています。

37歳になって生まれ故郷に帰って生活を送ることになると、子供の頃の自分と大人になった自分の両方と向き合う機会が増えました。

虫は宇宙から来た生物

東京では温度の寒暖でしか季節を感じることがなかったけれど、相馬に帰ってからは一面の田園風景に撓わに実った稲穂を見て秋を感じました。

そういえ秋は私の一番好きな季節だったと思い返しました。読書の秋、芋煮会の秋。「秋を愛する人は心深き人 愛を語るハイネのような僕の恋人」を口ずさむのがクセになってしまった。

たまに帰省する時があったから覚悟していたけど、田舎に帰ってきてまず思ったのは虫の多さ。東京にも虫はいるけど、都市の視界から排除するように空間設計されている。でも田舎はそうはいきません。

そういえば私も小さい頃は昆虫博士でした。図鑑で調べて色々な昆虫や変わった生き物の名前を憶えて、それを実際に山や田畑や海で見かけた生態系と重ね合わせて観察するのが好きでした。昆虫は他の生物と進化の過程が異なっており、別な宇宙から由来した生物なのではないかという話もかなり熱心に信じていました。

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(『遠藤浩輝短編集2』)

東京生活と権力

いつの頃だったかか、私も東京に出てしばらくしてから権力に憧れを抱くようになりました。権力への憧れというよりも欲望や渇望に近かったのかもしれない。

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(『遠藤浩輝短編集2』)

当初の東京での生活は貧しく、私はしばらく明日への希望を見出すことをやめました。中野のショットバーで強いお酒を飲んで、帰宅してから気を失うように眠る日が続きました。

恋もしたけれど、恋を維持するには自分はあまりにも無力だった。会社勤めをすることになっても変わり者だった私は全社メーリングリストで会社の立場を公然と批判するような人物でいつも社内で孤立していました。

東京で暮らしていくには夢物語を語るのではなく、具体的な力がなければいけないと思うようになりました。その一つが権力であったことは確かです。私は権力を手に入れたいと思うようになりました。

権力は文化的で人々に予期されて増幅するパノプティコン

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(『遠藤浩輝短編集2』)

権力を得るためにはお金が必要。そして権力を得ることによって自分の夢を実現することができると思っていました。

フーコーが指摘したように権力は文化的なもの。そして宮台が指摘したように権力は予期されるもの。「権力者によって見られているかもしれない」と人々の予期がすることで、権力は物理的な強制力を超えて人々を何倍も拘束する力になる。権力は文化や空気となって人々を支配するのです。

そうすることによって、パノプティコンの監獄のような世界で自分が中心に立てるのだと思いました。それは女性への支配という点でもそう思っていたところがあったのだと思います。

本当は誰かに甘えたかった

でも、それは一種の倒錯を含んでいました。私の目的は必ずしも権力を手にすることではなかった。

本当の私は、都会の孤独の中で無条件に甘えられる誰かが欲しかったのだと思います。権力はそれを手に入れるための手段の一つに過ぎず、私はそこで目的と手段を取り違えることで自分を誤魔化していました。

ゴミできらめく世界に生きていたのだと思います。

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(『遠藤浩輝短編集2』)

無条件な愛を欲するならば、私も相手に対して慈しみと憐れみを持って接せなければならなかった。相手を操作の対象だと勘違いしてしまうところに自分の倒錯の病巣を見つけることができました。

私が大人になって見失っていたものは、その倒錯を見抜く力。

私が本当に欲しかったものは支配や操作の対象ではなかった

子供の頃に読んでいた『藤子・F・不二雄 少年SF短編1』を読み返していたら、そういう自分を見つめ直すきっかけになりました。

『藤子・F・不二雄 少年SF短編1』の「恋人製造法」では、瀕死の宇宙人を助けたことでクローン技術を手に入れることに成功した主人公が、片思いの憧れの女性をクローン人間として培養するストーリーが描かれています。

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(『藤子・F・不二雄 少年SF短編1』「恋人製造法」)

愛しの人を育てることが出来ても、その心までも支配することは出来なかった

この計画は成功し、主人公は片思いの彼女をクローン人間として培養することに成功します。

しかし、クローンとして生まれたままの状態ではまだ知能も生まれたての状態。体は愛する人と同じでも、そこから1つ1つ育てていく必要がありました。

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(『藤子・F・不二雄 少年SF短編1』「恋人製造法」)

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(『藤子・F・不二雄 少年SF短編1』「恋人製造法」)

自我の目覚めと「自由」への渇望

次第にクローン人間だった麻理は自我に目覚めてくるようになります。

そして、その自我の目覚めの過程の中で、今まで意識していなかった外界への自由を渇望するようになります。

それは主人公の青年には与えることの出来ない自由でした。

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(『藤子・F・不二雄 少年SF短編1』「恋人製造法」)

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(『藤子・F・不二雄 少年SF短編1』「恋人製造法」)

愛する人の本当に手に入れたかったものを見送る心

そこで主人公は宇宙人と相談して、打開策を見つけることになります。

子供の頃の私にはこの打開策がとても強い印象に残ったのを憶えています。

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(『藤子・F・不二雄 少年SF短編1』「恋人製造法」)

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(『藤子・F・不二雄 少年SF短編1』「恋人製造法」)

本当に大切なものは権力や支配によっては手に入らない

本当に大切なものは権力や支配によっては手に入らない。

権力を通じて相手を支配する時、相手の精神は操作の対象でしかない。でも、それでは無条件な愛など手に入らないのです。

そのことを相馬で学び、東京で忘れ、相馬に帰ってから再び思い出しました。私が何かをして時には見送ったり手放すような心を持たなければならない。

そんなことを感じさせてくれた相馬の秋の夜でした。