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北朝鮮はMIRVの実験を行っているのではないだろうか?

   

火星12は弾頭が3つに分かれた

8月29日に北朝鮮が打ち上げた火星12ミサイル。日本政府の発表によるとミサイルは日本海上空で3つに分離したと言われています。なぜ火星12は3つに分離したのか。デコイ(囮の偽装弾頭)説や弾頭とブースター部分と結合部が分離した説などが報道されていますが、もう1つの憶測があります。MIRV(複数個別誘導再突入機)の実験であった可能性です。

MIRVとは何か

MIRVを簡単に説明すると1本のミサイルに複数の核弾頭を搭載する技術です。ミサイルが大気圏外で複数の核弾頭を搭載した再突入機に分離して、それぞれ離れた位置に誘導され大気圏内に再突入します。これにより1発のミサイルで複数の目標を同時に核攻撃することが可能となります。迎撃する側はこれら複数の核弾頭を同時に全て破壊しなければなりません。

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Wikipedia MIRV

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(アメリカのMIRV実験)

MIRVの場合、単機の核弾頭よりも小さな複数の弾頭に分離するため、1つ1つの破壊力は単機の核弾頭よりも小さくなります。しかし小さくなっているとはいえ核爆発が起きるので被害は甚大であり、かつ広範囲に渡るものとなります。第二次戦略兵器削減条約(START2)ではICBMのMIRV化が禁止されました。

北朝鮮はMIRV技術を保有しているか

現在MIRVを配備している国はアメリカ・ロシア・イギリス・フランス、そして公開はされていませんが確実視されている中国です。MIRVの実用化には核弾頭の更なる小型化や複数の再突入機の誘導制御などの高度な技術です。

それでは北朝鮮はMIRVの技術を保有していないのか。8月29日に打ち上げられた火星12は中距離弾道ミサイル・ムスダンのエンジン改良型です。このムスダンは旧ソ連のSLBM(潜水艦発射ミサイル)であるR-27の技術がベースとなっています。R-27はMIRV型のミサイルです。

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(8月29日に打ち上げられた火星12)

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(旧ソ連 R-27)

北朝鮮では旧ソ連のマカエフ記念設計所のロケット技術者を招聘してムスダンを開発しました。この時に技術者を通じてR-27で使われていたMIRVの技術の一部が北朝鮮に伝わった可能性があります。

また、R-27はMIRV ミサイルであり、北朝鮮に招聘されたソ連R-27開発技術者は初歩的MIRV技術を知っていた可能性がある。北朝鮮は、すぐには実用化できる技術力はないと思われるが、この技術者を通じてMIRV技術が伝わった可能性もある。(Wikipedia R-27))

北朝鮮はICBMに搭載できる単機の核弾頭にまで小型化が成功したかどうかという段階なので、MIRVを実用化しているとは考えにくいです。しかしMIRVの基礎技術を持っており、MIRVの実用化に向けて開発と実験を繰り返している可能性はあります。8月29日の火星12が3つに分離したのも、MIRVの実験目的が含まれていた可能性はあります。MIRVが実用化された場合、日米両国にとって大きな脅威となるでしょう。

報道各社が報じたMIRVの可能性

8月29日に打ち上げられた火星12の分離について、日本のメディアはMIRV実験である可能性をどう報じたのでしょうか。

東京新聞では、MIRVの可能性があり、北朝鮮外光関係者の話として「MIRV開発は最終段階」であると報じています。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/201708/CK2017083102000136.htmlwww.tokyo-np.co.jp

北朝鮮が二十九日に発射した中距離弾道ミサイル「火星(ファソン)12」が三つに分離したとみられることについて、複数の弾頭を搭載した「マーブ(MIRV)」技術や、弾頭に見せかけたおとりの「デコイ」によりミサイル防衛をかく乱する技術を試験した可能性が指摘されている。…外交関係者は「MIRVの可能性はある」との見方を示した。北朝鮮の軍事に詳しい同国関係者は「MIRV開発は最終段階」との情報を明らかにした。 (http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/201708/CK2017083102000136.html

毎日新聞では、金田秀昭・岡崎研究所理事の話として「MIRVの初歩的実験であった可能性も捨てきれない」と報じています。

また、ミサイルが三つに分離して落下した点については、元海上自衛隊護衛艦隊司令官の金田秀昭・岡崎研究所理事は「三つに割れた原因は、米韓と連携して丁寧に分析する必要がある。ただ、1発のミサイルで複数箇所を標的にする複数目標弾頭(MIRV)の初歩的実験だった可能性も捨てきれない」と話している。(新中距離弾道弾か 通常軌道、三つに分離https://mainichi.jp/articles/20170829/k00/00e/010/198000c

火星12の発射前の記事ですが、産経新聞では「野口裕之の軍事情勢」コーナーでMIRVの可能性も検証しつつ、複数の弾頭が1つの目標を一斉に攻撃する多弾頭型である可能性を支持しています。

だが、MIRVは高度な開発技術を要求され、実戦段階のMIRVを完備できているのは5大核保有国+αに限定される。従って、北朝鮮の火星14型が有する「多弾頭」とはMIRVではなく、複数の弾頭が一つの標的を一斉に攻撃する「多弾頭」だとの多数説に、筆者は賛同している。そうだとしても、「火星14型多弾頭」の迎撃は、単弾頭の火星13型より格段に困難になる。(【野口裕之の軍事情勢】北ミサイル開発は中露のおかげ それなのに批判する習、プーチン両氏は出会い系バーで「貧困調査」と同じ無理スジだ (4/6ページ) - 産経ニュース

日本経済新聞でも、米ジョンズ・ホプキンズ大の研究として2030年までに北朝鮮は多弾頭のICBMを開発する可能性があると指摘しています。

米ジョンズ・ホプキンズ大の北朝鮮分析サイト「38ノース」は10日、北朝鮮が発射した大陸間弾道ミサイル(ICBM)について、現時点で単発の核弾頭を搭載できる可能性があるが、2030年には複数の弾頭を搭載できるようになるだろうとの分析結果を発表した。(北朝鮮ICBM、30年に複数弾頭搭載も 米大が分析 :日本経済新聞

韓国の大手メディアである中央日報でも北朝鮮は多弾頭型ミサイルを開発中ではないかと書いています。

注目されるのは弾頭の数が「unknown(未詳)」と書かれている点だ。匿名を求めた情報消息筋は「火星14型は設計過程でロシアの多弾頭ミサイルを模倣したという情報がある」とし「火星14型が単弾頭でなく多弾頭として開発されている可能性があるというのが韓米情報当局の共同の評価」と説明した。報告書は火星14型と同じく一度も試験発射をしていない火星13型は単弾頭と記載した。火星14型の弾頭部は火星13型より周囲が大きく先が太いため、搭載空間が相対的に大きい。情報当局が多弾頭方式とみる理由の一つだ。(「北朝鮮、多弾頭ICBM開発中」…事実ならTHAADで迎撃難しく | Joongang Ilbo | 中央日報

報道各社でも北朝鮮が多弾頭型のミサイルを開発している可能性はかなり高いと報じています。

MIRVをどう迎撃するのか 期待が高まるMKV

仮に北朝鮮がMIRVの実用化に成功した場合、どのように迎撃するのでしょうか。世間一般の認識と違ってイージス艦のSM3や地上のPAC3のミサイル迎撃成功率は非常に高く、ノドンのような弾道ミサイルであればほぼ迎撃できると思われます。

しかし、火星12の高度2000kmにはSM3は届かず、SM-3が打ちもらしたミサイルを地上で迎撃するPAC-3も射程距離が20kmしかありません。また火星12の落下速度にはPAC-3は対応が困難とされています。いま韓国で導入が始まり日本でも検討されているTHAADも、距離200kmと高度150kmの範囲の目標しか迎撃できません。これにMIRVが加われば、1発のミサイルでも日本は複数の同時核攻撃を受けて甚大な被害を受けると思われます。米本土のミサイル防衛計画であるGMDも現状ではMIRVによる核攻撃を迎撃できる手段は確立されていません。

現在、MIRVへの対抗策として開発が進んでいるのはMKV(多目標迎撃体)です。これはMIRVの複数弾頭に対して迎撃側ミサイルも複数の迎撃弾に分離できるようにして、大気圏の再突入前に爆破させようとするものです。こちらも一発のミサイルで複数の弾道弾を破壊できるので、MIRVの飽和攻撃に消耗することなく迎撃できる手段として期待されています。しかしMKVが配備されるのは2030年頃の予定です。北朝鮮の脅威が米本土でも現実になった今は日米が協力して前倒ししてでも技術開発を進めることが望ましいと思います。

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StackPath

MKVの解説動画

www.youtube.com

次回のICBM発射について

北朝鮮が新たなICBM発射の兆候も出していますが、仮に発射された場合、再び弾頭が分かれるタイプ(MIRVの初期実験の継続)であるかもしれません。

北朝鮮にはまだMIRVを実現する技術は無いと思われますが、北朝鮮は旧ソ連・パキスタンなどの国の核開発技術を入手しています。北朝鮮一国の技術力だけでは推し量れないので、北朝鮮がMIRVをどこまで実現できているか警戒していく必要があるでしょう。

風が吹くとき

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